肉離れ
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1.発生のメカニズム
筋肉の損傷としては、肉離れの他に、筋挫傷、筋完全断裂などがあり、肉離れの軽症のものが筋挫傷、重症なものが筋完全断裂などといわれることもあるようですが、ここでは筋の部分的な断裂を肉離れとして扱うことにします。
肉離れとは、いわゆる筋肉(筋膜、筋線維)の損傷で、特にスポーツをしている際に筋肉に対して急激な収縮力や伸張力が加わったとき(スタートダッシュ、急激なストップ、ジャンプなど)によく起こります。
また、構造的な原因としてハムストリングスは股関節および膝関節、大腿四頭筋の中で大腿直筋は股関節および膝関節、下腿三頭筋の中の腓腹筋は膝関節および足関節といずれの筋肉も二つの関節をまたぐ『二関節筋』といわれ、複雑な機能を果たすとともに負担の大きな筋肉であるため発生頻度が高いといわれています。
その他の原因としては次のとおり。
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柔軟性の欠如 |
A |
左右筋力の相違 |
B |
ウォーミングアップ不足 |
C |
筋力や持久力の低下 |
D |
筋疲労 |
E |
大腿四頭筋とハムストリングスの筋力の不均衡(ハムストリングスは大腿四頭筋の60〜70%の筋力が必要といわれる。) |
好発部位としては次のとおり。
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大腿部後面・・・ハムストリングス:大腿二頭筋(長頭・短頭)、半腱様筋、半膜様筋 |
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大腿部前面・・・大腿四頭筋:大腿直筋、内側広筋、中間広筋、外側広筋 |
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下腿部後面・・・下腿三頭筋:腓腹筋(内側頭・外側頭)、ヒラメ筋 |
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2.症状
スタートダッシュ、疾走中、急激なストップ動作、ジャンプなどの際に、急に足がつったような感覚や後ろからその部分を蹴られたり棒でたたかれたりしたような感覚が局所に出現し、歩行や運動が困難になることもあります。また、局所の自発痛、圧痛、ストレッチング痛、抵抗下での運動痛、発赤、熱感、重症なものでは陥凹を触知することもあります。
このように症状は損傷の程度により様々ですが、ハムストリングスと大腿四頭筋では一つの目安として次のとおり段階的にその程度を分けることができます。
(1)ハムストリングス損傷の程度
T度(軽度): |
多少の不快感はあってもハムストリングスを完全に収縮させることができる。 |
U度(中等度): |
ハムストリングスを収縮させるのは困難である。 |
V度(重度): |
受傷後24〜48時間で著明な皮下出血が見られ、長期間の治療を要する。 |
(2)大腿四頭筋損傷の程度
T度(軽度): |
腫脹は軽度で、受傷部の直上に約1〜2cm程度の範囲に圧痛を持った広がりがある。手当てをせずに放置しておくと、筋緊張、腫脹、圧痛が急激に増大する。 |
U度(中等度): |
腫脹、筋緊張および圧痛がT度よりも激しい。 |
V度(重度): |
触診により、筋肉内に陥凹部を触れる。これは筋肉が約5〜8cm程度の幅で実際に断裂していることを意味する。また、受傷後24〜48時間以内に著明な皮下出血を見る。 |
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3.治療
急性期にはRICE処置〔R(Rest):安静、 I(Icing):冷却、 C(Compression):圧迫、
E(Elevation):挙上〕を施します。
また、なるべく体重などの負荷がかからないようにします。必要に応じて手技療法、鍼灸治療、パルス治療(低周波鍼通電療法)、超音波治療、その他物理療法などを行います。
また、症状の回復状況によって筋力トレーニングなどのリハビリテーションを行います。
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4.予防
柔軟性の向上、十分なウォーミングアップ、筋力バランスの均衡を保つ、筋力および持久力の向上、疲労の除去、スポーツマッサージ、鍼灸治療などを行い、筋肉や関節をよりよい状態に保っておくことが最善の予防策と思われます。
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参考文献
・柔道整復学[理論偏] 南江堂
・柔道整復学[実技偏] 南江堂
・整形外科学 南江堂
・スポーツ外傷学W[下肢] 医歯薬出版株式会社
・スポーツ外傷アセスメント〜適切な処置のための理論と実際〜 西村書店
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